「echo」オフィシャルインタビューを公開!
配信中の新曲「echo」について由薫が語ったオフィシャルインタビューを公開!
ドラマ『身代金は誘拐です』の主題歌として書き下ろされた由薫の新曲「echo」。極限状況に置かれた人間の選択を描く物語に対し、由薫は「誘拐」という出来事そのものではなく、その奥に潜む感情へと視線を向けた。そこですくい取ろうとしたのは無償の愛や、失うことで立ち上がる記憶の反響だ。冬の冷たさの中に抱えられる小さな温度、そして心にこだまする感情──前作「The Rose」に続き、川口大輔と再タッグによる繊細かつダイナミックなアレンジも相まって、深い余韻を残す一曲に仕上がった。
楽曲の制作エピソードはもちろん、昨年の弾き語りツアー『UTAU』を経て見えてきた歌うことの「輪郭」や、これからの創作へのモチベーションについて本人にじっくりと語ってもらった。
──まずは、ドラマ『身代金は誘拐です』の主題歌として書き下ろされた新曲「echo」が生まれるまでの経緯をお聞かせください。
由薫:これまでもタイアップで楽曲を書かせていただく機会はありました。その際は企画書や台本を読み込みながら、物語の中で伝えたい部分を見つけて書いていくことが多かったんです。ただ今回は、資料としていただいた情報がほぼあらすじのみだったので、ストーリーに細かく寄り添うというよりドラマの「核」になる部分を捉えて書こうと考えました。
子どもを誘拐されるという出来事が、当事者にとってどれほど大きな感情を伴うものなのかは、正直なところ想像することしかできません。私がこの曲で描きたいと思ったのは、大きな意味での「愛」──いわば「無償の愛」のような感情でした。ドラマでは誘拐がテーマになっていますが、誰かを不意に失ってしまう経験は、多くの人がすでにしているか、あるいはこれからするかもしれないものだと思ったからです。
──そこにこそ、由薫さんならではのアプローチがあると。
由薫:誰かと出会い、時間を共にしながら深く関わるということは、とても温かくて大切なことですよね。でも同時に、それは必ず「失う可能性」を内包しています。何千年も誰かと一緒にいることはできない。愛したり繋がったりすれば、いつか別れが訪れる。それは自分が去る側かもしれないし、奪われる側かもしれない。その結末だけを見れば、物語はどうしても悲しいものになります。でも、最近は「別れ」や「喪失」そのものよりも、そこに至るまでにあった「温かい記憶」こそが、その人との本当の思い出なんじゃないかと思うようになってきて。そのことについて、どうしても書きたい気持ちがありました。
──歌詞には、冬の情景がビビッドに描かれていますね。
由薫:振り返ってみると、これまで自分はあまり季節感のある曲を書いてこなかったなと。このドラマは1月から3月にかけてオンエアされます。書いていた時期も含めて、自然と「冬だな」と感じていました。でも実は私、冬がすごく苦手で……。外を歩くだけで顔が痛くなるし、自然と肩に力が入って肩こりがひどくなる。満員電車に乗れば今度は暑くなって汗をかくじゃないですか。その一連がどうしても嫌で、冬が好きな人と論争したこともあるくらいなんです。
──(笑)。
由薫:この曲を書いているときに考えていたのは、そういう顔に刺さるような冷たさの中で、何か大事な、小さな温かいものを抱えている感覚でした。寒さの中にいるからこそ、より強く感じる温度というか。この曲が、こうした気持ちに寄り添えるものになったらいいなと思っています。
──「echo」というタイトルは、どこから生まれたのですか?
由薫:誰かや何かを失ったあと、不意にその人と街ですれ違った気がしたり、どこかで見てくれているような感覚になったり、夢の中で話しかけられたりすることって、あると思うんです。私はそういう感覚を「エコー」だなと思っていて。一緒に過ごした時間がもたらす反響というか、こだまのようなものだと感じるんですよね。
──なるほど。
由薫:大事な時間や記憶が確かにあったからこそ、心の中でこだまが起きる。それは、その人をどれだけ大切に思っていたかを証明するものでもある気がしていて。「echo」というタイトルにはそういう思いを込めました。特にサビの歌詞でそれを表せたんじゃないかなと思っています。
──歌い方やボーカル表現について、今回は意識したことはありましたか?
由薫:最初はポツリポツリと語りかける曲にしたいというイメージがあったんです。でもアレンジャーの川口大輔さんから、「サビは思いきり大きな声で歌ってほしい」と言われて。試しにやってみたところ、かなりダイナミックな楽曲になりましたね。歌うときの表情に関しても、これまで以上に意識しました。笑顔で歌うのと真顔で歌うのとでは、声の質がまったく違う。やはり声にも確実に表情があると思っていて、そうした一つひとつを丁寧に積み重ねていきました。
──昨年は弾き語りによる全国ツアー『UTAU』がありました。手応えはいかがでしたか?
由薫:ツアーは全部で11会場を回りました。私にとってはこれまでで最多であり、いちばん長いツアーでした。しかも「弾き語り」での単独ツアーは初めてで、これまでライブをしたことのない場所にもたくさん行かせてもらったんです。カフェや講堂、教会など普段やらないような場所でも演奏ができて、本当に貴重な機会でしたね。最初は戸惑うことも多かったのですが、終わってみると本当にやってよかったなと。歌うことそのものへの考え方が変わったと思えるくらい、とにかく学んだことが多すぎて……何から話せばいいのかわからないくらいです(笑)。
──お客さんとの距離感も、いつもとは違っていました?
由薫:近すぎました!下手したらギターのヘッドがお客さんに当たっちゃうんじゃないかと思うくらい。終わったあとは、毎回みんなと友だちになれたような手応えがありましたね。私の独りよがりかもしれませんけど(笑)。特に印象に残っているのが石川県でのライブ。ものすごい大雨が振り出して、途中からは雷まで鳴り出したんですよ。会場がカフェだったので、外の雷の音がそのまま中まで響いてきて……。「雷すごいね」なんて言いながらライブをしていました。嵐の中みんなで一つの小屋に集まっていると、まるで「世界対自分たち」みたいな気持ちにもなってきましたし。
──それは貴重な体験でしたね。
由薫:今でもあの光景を思い出すと、自然と笑顔になってしまうくらい幸せな記憶になりました。全国を車で回って、ライブをして、コミュニケーションを取って、また次の場所へ行く。その積み重ねによって、今は心の中に日本地図があって、ライブをした場所がちゃんと刻まれているというか。その地図が、自分にとって大きな土台になってくれている感覚があります。
──『UTAU』の告知コメントに、「なぜ私はこんなにも歌うことに惹かれるのか、自分でも不思議に思います」と書かれていました。実際にツアーを回ってみて、先ほど「歌うことそのものへの考え方が変わった」ともおっしゃっていましたが、今は「歌うこと」「歌と向き合うこと」をどんなふうに捉えていますか。
由薫:私にとって「歌う」という行為の意味は、ずっと変化し続けていると感じます。歌い始めた頃は、すごく独りよがりで「叫び」や「独り言」のような感覚でした。でもデビューしてから少しずつそれが変わっていき、歌うことが責任を伴うものにもなっていったんです。
とはいえ最近になって改めて思うのは、「歌うこと」は「空気を揺らすこと」なんだな、ということ。「声」そのものは単純に空気が震えるだけ。でもそれが誰かの耳に届いた瞬間、情景が浮かんだり、笑顔になったり、涙が流れたりするわけじゃないですか。今回のツアーでは、目の前で涙を流している人を見ることも多くて、「この人は私が揺らした空気で泣いているんだ」と思ったとき、それってすごく不思議だし糸電話みたいだなと感じたんです。
──「糸電話」ですか。
由薫:はい。空気の揺れを通して、人と人が繋がっているような。だから今の私にとって「歌う」ということは、矢印を外に向ける行為なのだなと思っています。空気の震えが誰かの耳に届いて、初めてそこで「歌」になる。家でボソボソと歌っていた頃も、それは確かに「歌」ではありました。でも、今の私が思う「歌」とは少し違う。今の私にとっての歌は、「誰かに聴いてもらいたい音」なんです。そのことに改めて気づくことができました。
それと、このツアーで自分の「輪郭」をちゃんと掴めた感覚がありました。「私はこのくらいの身長で、このくらいの体重のアーティストなんだ」と。すごく感覚的な言い方ですけど、それが分かったのは大きかったですね。
──2026年はどんな一年にしていきたいですか?
由薫:とにかく曲を書くこと。それがいい作品になるかどうかは分からなくても「書き続けること」で見えてくるものが、きっとある気がしていて。弾き語りツアー『UTAU』を経て「地面」が見えたというか、地面に立っている自分をしっかり自覚できた感覚がある。その「地面」からどうやって階段を登っていくのか──そのことを考える一年にしたいですね。
インタビュー/文章 : 黒田隆憲
由薫「echo」配信中!
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